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簪(かんざし)

太古の昔からある髪に留める装身具である。日本の縄文時代の発掘品にも人面の簪がある。
人面を表現した簪 鹿の角製(文化遺産オンライン)
漢字の簪(かんざし)は、中国で官職にある男子が、地位と職種を表す冠と呼ばれる帽子を髪に留めるための道具を意味していたという。

杜甫(盛唐の詩人)作 春望
國破れて 山河在り
城春にして 草木深し
時に感じて 花にも涙を濺ぎ
別れを恨んで 鳥にも心を驚かす
峰火 三月に連なり
家書 萬金に抵る
白頭掻いて 更に短かし
渾べて簪(しん)に勝えざらんと欲す

最後の「白頭掻いて 更に短かし 渾べて簪に勝えざらんと欲す」の句は、白髪の頭を掻けば、髪の毛は更に薄くなっていて冠を留めるための簪も刺せなくなっているほどであるという意味で、簪が冠を髪に留めるのための道具であったことがわかる。
日本の奈良時代、律令制度下でも、冠は朝廷に出仕するときの公式の帽子として使用された。頭巾(ときん)と呼ばれる布の袋で、頭頂部と髻(もとどり)をひも結んで覆うものであったが、平安時代後期になり巾子(こじ)の部分(後頭部から上に立ち上がった部分)を漆で固めた冠が採用されるようになると、巾子の中に髻を入れて左右から長い1本の棒状の簪(かんざし)を差し貫いて冠を固定した。
女子が用いていた同様の頭飾りを髪に留めるための道具は2本足をしていて、釵子(さいし)と呼ばれた。日本では平安時代、朝廷での女官の正装(十二単)に使用された頭髪を留めるための飾りで、金属製で細長く U 字形に作り、一本を平額(ひらびたい:額の上方に付ける飾り)から丸髢(まるかもじ:平額をつけるために前頭部に添えた髢)に、二本を丸髢から地髪に通して平額と丸髢を締める。
従って簪という漢語は、主に男性が用いた1本足の冠留めを言うようである。

和語の「かんざし」は、古代に髪挿し(かみさし)または挿頭し(かざし)と呼ばれる頭に飾った草花や小枝に由来するとされている。挿頭しは古くは、生命力を身につける呪術的な意味を持ったが、後に形式化し、造花を用いることが多くなったと辞書にはある。髻華(うず )とも呼ばれる。

挿頭しという言葉は和歌にも頻繁に使われている。
万葉集
人ごとに折り挿頭しつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも 舟氏麻呂
あしひきの山の木末の寄生取りて挿頭しつらく千年寿ぐとぞ 大伴家持
手折らずて散りなば惜しと我が思ひし秋の黄葉を挿頭しつるかも 橘奈良麻呂
高円の秋野の上のなでしこが花うら若み人の挿頭ししなでしこが花 丹生女王
柿本朝臣人麻呂歌集
古に有りけむ人も吾が如か三輪の檜原に挿頭し析りけむ
(挿頭しにするため枝を折る。三輪の枕詞。)

また、京都の葵祭の葵かざしにも挿頭しの名残が見られるという。
葵祭は欽明天皇(540 〜571年)の時代、凶作に見舞われ占いを行ったところ、賀茂の神々の祟りであるという託宣を受け、天皇が勅使をつかわし賀茂の神の祭礼を行ったのが始まりとされる。上賀茂、下鴨両神社の例祭である。「宮中の儀」「社頭の儀」と「路頭の儀」の三つで構成され、「路頭の儀」では京都御所から下鴨神社、上賀茂神社の道のりを平安朝の装束をまとった勅使が、斉院(神につかえる皇族出身の未婚の女性)の代わりとして市民の中から選ばれる斉王代とともに練り歩く。祭当日は、内裏神殿の御簾、御所車、勅使・供奉者の衣冠、牛馬が、葵の葉(フタバアオイ)と桂の小枝で飾られる。これが葵かざしである。上賀茂神社の祭神「別雷神(わけいかずち)」が御降臨された際、御神託により葵楓(あおいかつら)の蔓(かずら)を装って祭を行ったのが起源であると言われる。
(世界文化遺産)上賀茂神社     (世界文化遺産)下鴨神社

現在、簪という言葉は主に和服を着る女性が髪を結う時の髪留めに使う日本の伝統的な装身具を意味する。着物を着た女性の装身具としての簪は江戸時代中期以降に急速に発展した。
平安時代の頃から、宮中の女性は髪を結わずに垂髪にしていたので、結髪のための装身具に対する需要はあまりなかった。しかし、江戸時代になって女性達の間に結髪が広まるようになると、髪を留め、飾るためのさまざまな種類の簪が作られるようになった。その後髪型自体も複雑多様化し、江戸時代中期以降になると意匠と技巧を凝らした装身具としての簪が発展する。素材は木、象牙、鼈甲、馬爪、ガラス、金、銀、錫などいろいろなものが使われ、意匠も多種多様で高価な鼈甲に彫刻を施したものや、うちわや扇型、歩揺(びらびら)という豪華な簪も現れた。簪を挿す本数も増えていったようで、浮世絵美人画を見ると、結い髪にかんざしを何本も挿している姿が描かれている。
江戸時代の主な簪の種類
○耳かき簪
頭の部分に耳かきがついた2本足の簪。耳かきにしたのは奢多の取り締りに対する言い逃れの為だったらしい。
○松葉簪
髪に挿す部分が松葉のような二股になったデザインの簪。
○玉簪
耳かき簪にサンゴやヒスイの玉を通したもの。二分玉、三分玉、五分玉など大きさに種類があった。
○平打簪
平たい円形・亀甲形・菱形・花型などのわくの中に、透かし彫りや、毛彫りで定紋・花文を彫り込んだもの。武家の女性は自家の家紋を入れた。団扇・開き扇子・銀杏・桐・笹などの形もあり素材も様々。
○花簪
花びらをあしらった簪、挿頭しに由来する意匠である。舞妓や芸妓が月ごとに身につける花簪がある。
○びらびら簪
本体の花の下に鎖状の下がりを幾つも垂らして、その下にさらに小さな蝶や鳥や花などの飾り物を多数付けたもの。未婚女性向けの簪。
○立挿し簪
鬢の部分に縦に挿す留め針が長い簪。
○両天簪
簪本体の両端に対になる飾りがついた形のもの。
○姫挿し
本体は櫛のような形状で銀製の造花が隙間無く付けられる。
○扇
扇子のような形状。家紋や文字が銀箔で捺される。
○変わり簪
上記以外の意匠の簪。

簪の位置
前挿し:前髪の両脇(左右のこめかみ辺り)に挿す。
立挿し:鬢窓(びんまど:鬢の上部)に立てて装着する。
髷挿し:髷の前面根元に挿す簪。もっとも一般的な簪の飾り位置。
根挿し:髷の後方根元に挿す。

簪の美
国立博物館
銀製      変り型:ガラス製      変り型:銀・珊瑚      色絵菊文簪(三浦乾也作)      簪玉(三浦乾也作)     
花簪:鼈甲製      びらびら簪:銀・珊瑚      びらびら簪(鳳凰と花):銀製      桐花平打簪・菊花平打簪:銀製     
櫛・簪・笄      玉簪:銀製      龍の足簪:べつ甲製      ねずみに燕変り形簪:銀製      桐花簪:銀製     
牡丹花飾簪:真鍮製一部鍍銀      藤棚飾簪・椿折枝飾簪:銀製・銀製一部鍍銀      藤飾簪・菖蒲文平打簪:銀製     
螢図平打簪:銀製      明治時代のずみどし簪:白甲製     
京都国立博物館
梅花金銀珊瑚造りびらびら簪      鳥籠金銀珊瑚造りびらびら簪       蝶万年青金銀珊瑚造りびらびら簪     
小槌蒔絵鼈甲簪       芙蓉珊瑚貝造り鼈甲簪
国立歴史民俗博物館
珊瑚花飾ビラ付簪(髪飾具コレクション)
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